学校法人井之頭学園 教職員倫理憲章
〜高度な専門性と倫理観を併せ持つ専門職として、健全な教育関係を築き、安心と個の尊重を保障するための行動指針〜
発行日: 2025年10月15日
学校法人井之頭学園
理事長 高橋あゆち
- 教職員に求められる倫理観と社会的責任
学校運営に関わるすべての教職員、関係者(常勤・非常勤の教職員、スクサポ、部活動指導員、コーチ等を含み、以下「教職員等」といいます)は、単に知識や技能を教えるだけでなく、未来を担う生徒たちの人格形成に深く関わる、極めて公共性の高い専門職です。その言動は生徒の価値観や人生に大きな影響を与え、社会全体から常に厳しい目で見られているという事実を忘れてはなりません。したがって、すべての教職員には、生徒、卒業生、保護者、同僚、取引業者など関係するすべての人々に対して、、法令遵守はもとより、以下の高い倫理観と責任感が求められます。
人間としての尊厳の尊重:
すべての生徒は、かけがえのない一人の人間です。その人格、尊厳、人権を最大限に尊重し、いかなる差別や偏見も許さず、一人ひとりが安心して自己を表現できる環境を保障する責務があります。
教育者としての立場と公私の区別:
我々は常に「教職員」という公的な立場にあります。生徒の「良き理解者」であろうとするあまり、友人や保護者のような私的な関係に踏み込むことは、公私の混同を招き、教育の中立性や信頼を損なう危険な行為です。生徒だけではなく、教職員や関係者との間でも、常に節度と適切な距離感を保たなければなりません。
信頼を裏切らない誠実さ:
生徒、保護者、そして社会からの信頼こそが、教育活動の基盤です。その信頼は、日々の誠実な言動の積み重ねによってのみ得られます。一度失った信頼を回復することは極めて困難であることを肝に銘じてください。
絶えざる自己内省と学びの姿勢:
自らの言動が、生徒にどのような影響を与えるかを常に客観的に振り返る(自己を内省する)姿勢が不可欠です。「昔は許された」「このくらいは大丈夫だろう」といった安易な考えは通用しません。人権意識や社会規範の変化を常に学び、自らの価値観をアップデートし続ける努力が求められます。
- はじめに(本ガイドラインの目的)
本ガイドラインは、前項で述べた教職員としての倫理観を土台とし、生徒および卒業生、保護者、同僚や取引業者等すべての関係者に対するセクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、その他一切のハラスメント(以下、総称して「ハラスメント」)を未然に防止するための具体的な行動指針を示すものです。すべての教職員は本ガイドラインを熟読・理解し、自らの言動を常に省み、ハラスメントのない、信頼に基づいた教育環境の構築に努めます。
- 基本方針
人権の尊重:
すべての関係者の人格と尊厳を尊重し、いかなる形態のハラスメントも許容しません(ゼロ・トレランス方針)。
優越的地位の自覚:
教職員は生徒に対して、成績評価、進路指導、部活動等において極めて優越的な地位にあることを常に自覚し、その地位を濫用しません。この関係性は、生徒の卒業後も一定期間継続し得ることを認識します。
安全な環境の確保:
関係者や生徒がハラスメントの不安を感じることなく、業務、学業、課外活動に専念できる環境を維持・向上させることを最優先とします。
厳正な対応:
ハラスメント行為が確認された場合、就業規則等に基づき、厳正な処分を行います。
- ハラスメントの定義
ハラスメントに該当するか否かは、相手がどう感じたかが重要であり、行為者にそのつもりがなかったという弁解は通用しません。教職員と生徒・卒業生という非対称な力関係においては、特に慎重な判断が求められます。
A. セクシュアル・ハラスメント
相手の意に反する性的な言動により、相手に不快感や屈辱感を与え、学習・活動環境を悪化させる行為全般を指します。これは行為者や被行為者の性別を問いません。また、特に生徒に対する行為の内容によっては、生徒との同意や暴力の有無を問わず「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」違反となり、処罰の対象となります。
具体例:
身体的接触:
必要性のない、あるいは不適切な身体への接触(頭を撫でる、肩を抱く、腰に手を回す、二人きりの空間で身体的距離が近すぎる等)。
性的な言動:
性的な冗談、からかい、質問。容姿や服装、身体的特徴について執拗に言及すること。性的な経験や交友関係について尋ねること。
視覚的行為:
相手が不快に感じるような視線で体を見ること。わいせつな画像や動画を見せること。
誘い・強要:
食事やデート、ドライブ等に執拗に誘うこと。個人的な連絡先(LINE、SNSアカウント等)の交換を教職員側から強要すること。
その他:
「彼氏/彼女はいるのか」といったプライベートな質問。性別による固定的役割分担(「男だから」「女だから」といった発言)を強いること。
B.パワー・ハラスメント/スクール・ハラスメント
教職員という優越的な地位や関係性を背景として、適正な範囲を超えて行われる、以下のような言動を指します。
(生徒に対して)
教育の範囲を逸脱し、生徒に精神的・身体的苦痛を与えたり、学習環境を悪化させたりする行為
(教職員等の間において)
業務上適正の範囲を超えて、他の教職員等に対して精神的・身体的苦痛を与えたり、就業環境を悪化させたりする行為。
具体例:
身体的な攻撃:
殴る、蹴る、物を投げつけるなどの暴力行為、体罰。
精神的な攻撃:
全人格を否定するような暴言、侮辱、恫喝、嘲笑。他の生徒の前で特定の生徒を執拗に叱責し、晒し者にすること。
人間関係からの切り離し:
特定の生徒を意図的に無視したり、仲間外れにしたりするよう仕けること。
過大な要求:
達成不可能な課題やペナルティを課すこと。指導と称して長時間拘束すること。
過小な要求:
特定の生徒に必要な指導をせず、放置すること。能力や意欲を無視して、単純作業のみを強いること。
個の侵害:
思想・信条や家庭環境、性的指向・性自認(SOGI)など、機微な個人情報について本人の許可なく他者に漏らしたり、執拗に尋ねたりすること。プライベートに過度に干渉すること。
- 具体的な禁止事項(行動規範)
生徒は教職員のさまざまな欲求を満足させる対象ではないことを念頭に、教職員は、ハラスメントのリスクを回避し、生徒の模範となる行動をとるため、以下の行動を厳に慎みます。
密室・二人きりの状況の回避:
学校の敷地の内外、教職員の性別や施錠の可否を問わず、個室(教室、相談室等)で生徒と二人きりになる状況を作らない。ドアを開ける、複数で対応する等の対策を講じること。やむを得ない場合は、他の教職員に状況を伝え、可能な限り短時間で終えること。
校外での私的な交流の禁止:
生徒(個別グループ含む)と食事、カラオケ、買い物等に行くことを禁止する。ただし、部活動などの引率等で必要な場合を除く。公用車や自家用車に生徒を同乗させることは、緊急時や学校が認めた公式な場合を除き、禁止とする。
個人的な連絡手段の交換・使用の禁止:
個人的な携帯電話番号、メールアドレス、LINEやInstagram等のSNSアカウントを生徒と交換しない。連絡は、学校が管理する連絡ツール(Blend、ロイロ、Google Classroom、Slack等)のみを使用すること。私的な用件での連絡は一切行わない。LINEグループ等多数が参加するSNSへの私的なアカウントでの参加も行わない。業務上の必要がないにもかかわらず、生徒のSNSを閲覧したり、「いいね」やコメント、フォローをしたりしない。
卒業後間もない卒業生との関わりにおける注意点:
卒業後であっても、元教職員と元生徒という力関係は継続しやすいことを認識する。特に卒業後間もない者(特に卒業後1年以内の者、20歳に満たない者や学生等)との関係には細心の注意を払います。
卒業生と業務上の都合があって連絡を取る場合、学校が管理する連絡ツール(Gmail)を用い、私的なツールの利用を禁止します。
卒業後間もない卒業生から私的な誘いがあった場合でも、節度ある距離感を保ち、二人きりで会うことや、恋愛・性的関係に発展したり、そのように誤解を招いたりする言動は避けること。また、卒業後間もない生徒が同席する飲酒の場に参加することは固く禁じます。在学中の情報(成績、プライベートな相談内容等)を軽々しく話題にしない。守秘義務は卒業後も継続します。
言動に関する注意:
業務上の都合(例えば、運動部での部活中の指導で必要な場合)を除き、生徒を呼び捨てにしたり、不適切なニックネームで呼んだりしません。
指導の範囲を超えた個人的な質問(家庭、恋愛、交友関係等)はしません。
特定の生徒を「えこひいき」したり、逆に冷遇したりしていると受け取られる言動は慎む。特定の生徒だけ呼び方を変えることは、えこひいきと捉えられる可能性があります。
また、職員間であっても、特定の職員だけ呼び方を変えることは、言われた本人の気持ちを害するだけでなく周囲に誤解を与えかねないことに留意します。
- 勤務時間外における生徒等の問題行動への対応
教職員は勤務時間外や休日であっても、社会の一員として、また教育に携わる者としての良識ある行動が求められます。しかし、生徒等の問題行動に遭遇した際、個人で対応することは、身の危険を招いたり、事態を悪化させたりするリスクを伴います。
以下の原則に基づき、冷静かつ組織的な対応を徹底してください。
A.基本原則
自身の安全確保を最優先する: いかなる状況においても、自身の生命・身体の安全を第一に行動してください。危険を感じた場合は、決して無理な介入や声かけは行いません。
個人で解決しようとしない:
対応の責任は個人ではなく学校組織が負います。個人の判断で行動せず、必ず学校に報告・連絡・相談(報連相)をしてください。
公的機関との連携を躊躇しない:
犯罪行為、火災、急病人、交通事故など、緊急性が高く、専門的な対応が必要な場合は、ためらわずに警察(110番)や消防・救急(119番)に通報してください。これは市民としての当然の義務です。
B.在校生への対応フロー
状況の冷静な把握:
まずはその場から少し離れ、安全な場所から状況を確認します(喫煙、飲酒、深夜徘徊、危険行為など)。緊急性の有無(暴力沙汰に発展しそうか、明らかに危険な行為か等)を判断します。
緊急時の対応:
生命・身体に危険が及んでいる、または犯罪行為を目撃した場合は、直ちに警察(110番)や救急(119番)に通報します。通報後、安全な場所から学校の管理職(緊急連絡網)へ速やかに状況を報告します。教職員が直接、物理的に制止したり、当事者間に割って入ったりすることは原則として禁止します。
非緊急時の対応(軽微な問題行動):
深夜徘徊や喫煙の疑いなど、直接的な危険はないが指導が必要と思われる場合は、その場での声かけや指導は原則として行いません。(※相手が複数人であったり、場所が繁華街であったりする場合、予期せぬトラブルに発展するリスクが高いため)
日時、場所、生徒の氏名(不明な場合は服装等の特徴)、状況を正確に記録し、翌勤務日に速やかに管理職および生徒指導部に報告してください。
対応は、学校組織として学年団が中心となり、関係機関と連携の上、適切に行います。
C.卒業生への対応
卒業生は学校の監督下にはなく、一人の市民です。
卒業生による明らかな法令違反や反社会的行為を目撃した場合は、元教職員としてではなく、一市民として警察に通報してください。
元教職員という立場で個人的に介入することは、越権行為と見なされたり、トラブルに巻き込まれたりする危険があるため、厳に慎んでください。
ただし、その事案が在校生に影響を及ぼす可能性があると判断される場合は、学校の管理職に情報提供として報告してください。
- ハラスメントが発生した場合の対応
A.相談を受けた場合
生徒や保護者からハラスメントに関する相談を受けた教職員は、以下の手順で対応してください。
傾聴:
まずは相談者の話を真摯に、遮ることなく聴く。「あなたのせいではない」ことを伝え、相談してくれた勇気を尊重する。
事実確認:
5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を冷静に聴き取り、記録する。憶測で判断したり、安易に善悪を断定したりしない。
秘密の保持:
相談内容や相談者のプライバシーは厳守することを約束する。ただし、「調査や対応のために、学校内の然るべき担当者(コンプライアンス責任者等)に報告する必要がある」ことを必ず説明し、完全な秘密は守れない場合があることを理解を得ます。
即時報告:
聴取した内容を、速やかに指定された相談窓口(コンプライアンス責任者、管理職等)に報告する。自己判断で対応を完結させないこと。
B.ハラスメントを目撃した場合
他の教職員等によるハラスメントが疑われる言動(生徒に対するものだけではなく教職員間および学校関係者に対するものを含む)を見聞きした場合は、見て見ぬふりをせず、勇気をもって相談窓口に報告してください。これは同僚を告発する行為ではなく、生徒と学校、そして同僚自身をも守るための、組織の一員としての責務です。報告者のプライバシーは保護され、報告したことによる不利益な扱いは一切受けません。
- 相談・報告体制
本学園は、ハラスメントに関する相談・報告のために、外部相談窓口を設置しています。
相談・報告後の対応
相談・報告があった場合、プライバシーを厳守の上、コンプライアンス委員会が速やかに事実関係の調査を行います。調査の結果、ハラスメント行為が事実と認定された場合は、行為者に対して就業規則に基づき、懲戒解雇を含む厳正な処分を下します。また、被害を受けた方の心のケアを最優先に行います。
- 結び
教職員という職業は、生徒の未来を照らし、その成長を間近で支えることができる、比類のない誇り高い仕事です。その誇りを自らの未熟な言動で傷つけ、生徒の心を踏みにじることは、断じてあってはなりません。
本ガイドラインは、皆さんを縛るためのものではなく、皆さん自身と、そして何より大切な生徒たちを守るためのものです。一人ひとりが高い倫理観と専門職としての自覚を持ち、本ガイドラインを遵守することを強く求めます。
不明な点や判断に迷うことがあれば、決して自己判断せず、リスク管理&コンプライアンス室または管理職に相談してください。